歌伝説

fai22008-03-27

  先日、NHK特集『本田美奈子 最期のボイスレター』を見た。 若くして白血病で亡くなった本田美奈子さんが、入院中、同じ病院に入院していた恩師である作詞家岩谷時子さんと、ボイスコーダーで交流したやりとりがそのボイスレターの音によって紹介された。本田さん自身も辛い病と戦いながら、骨折で入院した岩谷さんを励まし続けるボイスレターに本当に感動した。本田さんのとても病気とは思えない笑顔が零れ落ちるような明るい声と、素晴らしく澄んだ歌声に涼やかに心洗われた。
  
  いろいろ問題もあるNHKだが、時々、本当に素晴らしい番組がある。以前の『歌伝説 ちあきなおみの世界』『歌伝説 テレサ・テンの世界』などには、最初はちらっと見るつもりだったのが、一瞬にしてどっぷりと浸りこんでしまった。今思えば、録画しなかったのを後悔しているくらいだ。テレサ・テン美空ひばりはもうこの世にいない人たちだが、その歌曲と伝説は永遠に生きている。もうすぐ命日を迎えるレスリー・チャンや、アニタ・ムイの歌声も同様だ。
  ちあきなおみは亡くなったわけではない。1992年の9月11日に最愛のご主人が亡くなった時から全ての芸能活動を封印し、今なお沈黙のなかにいる。今年の初めの『たけしの誰でもピカソ』でも特集をしていたが、彼女の歌唱力は筆舌に尽くしがたく、しめやかなハスキーボイスは独特の響きを帯びていた。ラストシングルで映画『GONIN』の主題歌にも用いられた『紅い花』などは一度聴いたら忘れがたい名曲だ。また、黒人ジャズシンガー、ビリー・ホリディを演じた一人舞台『LADY DAY』、私は一度も見る機会に恵まれなかったことが本当に残念でならない。2007年に週刊アサヒ芸能で連載された石田伸也氏の『伝説の歌姫との再会!』も、その連載時に私は知らなかったが、つい先ごろ、『ちあきなおみ 喝采、蘇る。』というタイトルで単行本になって発売された。「沈黙から15年、初めて明かされる歌姫の真実」。読んでみて、それほど驚くべき事実に遭遇するわけではないが、昭和の歌謡界の片鱗がうかがえ、慕情にも似た懐かしさを味わえる。