『ノルウェイの羅生門』家輝のエッセイより

気鋭のエッセイスト、梁家輝先生の今日のエッセイです。彼は東西の映画界のみならず出版界の各種事情にも大変精通していて、今日もまた大いに受けさせていただきました。彼の大好きな本ネタ&日本ネタに流行作家ネタ&有名人ネタが加味されて、わたしら日本人にはごっつうええ味わいの文章でありました。読み応え抜群!ここに全文訳、記します。

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読者は見出しを見て、私が『ノルウェイの森』と『羅生門』の2冊の名著を間違ったと思っただろうか?読者には知らないむきもあるだろうが、これが約半年前に起きた、いわゆる『ノルウェイに森はない』事件である。

話は某出版社が『ノルウェイに森はない』という一冊の中文翻訳本を出版したことから始まる。原作者といわれるのは日本の作家村上春樹の元恋人、福原小姐で、彼女はこの著書の中で自分と村上の愛情物語を語っている。『ノルウェイの森』は村上の出世作で、福原小姐は自分の本によく似た名前を冠した。もしかしたら、これは彼女と村上の恋情を利用して販売を促進しようと思ったのかもしれない。

有名人の色恋沙汰を売り物に本をあてようとすることは別に珍しいことではない。問題は福原小姐が結局本当に村上の元恋人かどうか?あるいは本当に福原なんていう人はこの世に存在するのか?まずその質疑をただしたのは読者だった。
その後、村上春樹の事務所の発表によると、まず、村上自身、その福原なにがしを知らない。中文版の宣伝文句によると、福原小姐は日本の横浜出身で早稲田大学を卒業、1992年に「日本文学新人賞」を受賞。ここまで確かな一個人なのだから、検証は簡単なはずだ。

しかしながら、日本のどこにもこの作家の資料はない。もしかりに福原がペンネームだとしたら、『ノルウェイに森はない』の日本語版を探せば見つかるのではないか?それもない。
しかし、宣伝資料によると、この書はかつてインターネット上で広範囲に流布され、アクセス回数は300万回を超え、読売新聞紙上でも評論があったという。それがどうして忽然と消え失せたのだろうか?中文版には解釈はない。日本はもう一歩押し進んで指摘している。たとえこの本が本当に姿をひそめたとしても、日本の法令に基づいて全ての出版物は国会図書館に登録されるし、更にまた世界共通のISBN書籍コードというものもある。

世の中は危険で恐ろしい。私は武侠小説を読み慣れた読者であり、もちろん表面の証拠からすんなり結論を見ることはありえない。残念ながらその後中文版のほうから、中文版はただ読者の投稿であり、出版社も日本の原書はみたことがない、うんぬんと言葉を濁して言っている。これにいたって、結局ノルウェイに森はあるのか?この現代の羅生門事件は未解決のまま棚上げにするほかない。
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ところで、私も確かに香港の書店で『那威没有森林』という本は見たことがあるの!まさかそんな本だったとは・・・・!でも、村上さんがらみのこの話はやはりどこかで聞いたことがある気がします。