『苹果』

fai22008-01-10

 年末年始、DVDで『我的教師生涯』『苹果』『C+偵探』『戒・色』『兄弟』をゆっくり鑑賞した。
まずは『苹果』に関して。ほぼ全編に渡って触れるので未見の方はご注意ください。

監督:李玉(リー・ユー)
主演:梁家輝(レオン・カーファイ)、范冰冰(ファン・ピンピン)、金燕玲(エイレン・ジン)、ィ冬大為(トン・ダーウエイ)

大都会へと様変わりの続く北京の街が舞台。
劉蘋果(范冰冰)は、足マッサージ店で働いている。夫、安坤(ィ冬大為)は高層ビルの窓清掃人。互いに仕事を持つ二人だが、狭い家の中では若い夫婦らしく仲むつまじく暮らしていた。
ある日、同僚の女友達と酒を飲み酩酊した蘋果は、自分の勤務先のマッサージ店の部屋で寝てしまう。その姿を偶然目撃した社長の林東(梁家輝)は、つい出来心で、しどけなく寝ている蘋果を無理やり犯してしまう。ところが、その場面をちょうどビルの窓を拭いていた蘋果の夫が目撃。怒り心頭に発した安坤は、すぐさま店内に押し入り林東を脅し慰謝料を要求し、また、社長の妻、王梅(金燕玲)を待ち伏せ、夫の林東と自分の妻の件を訴え、金にしようとする。
事件から、約一ヵ月後、蘋果は自分が妊娠したことに気づく。本来なら夫婦にとって喜事のはずが、二人にとっては陰鬱な結果だった。蘋果自身は夫安坤の子であると確信しているが、安坤は、時期を考えても林東の子に違いないと思いこむ。そして、彼は、林東から、子供をたてにさらに金を引き出そうとする。
対する林東夫婦にはずっと子供がおらず、蘋果が妊娠した事を知った林は、逆に、もしその子が自分の子であれば手に入れようと画策する。彼は、妻にも全容を話し、了解させようとするだけでなく、安坤にも、子供ができてからの金の支払い条件を自分から提案する。「自分はB型、お前はA型、蘋果はO型。もし生まれてきた子がB型なら、自分の子供なので、十万元払う。もし、A型なら、お前自身の子なので問題ないだろう。もし、O型なら、DNA鑑定をしよう。これでどうだ?」という林の提案に「冗談じゃない、どっちにせよ精神的苦痛の慰謝料をまず2万払えよ!」という安坤。二人はそんな交渉をしながらも交流が始まる。
そんな折、蘋果は子供を堕そうといかがわしい医者のところまで行くが、恐れから決心がつかない。夫は、金の種となる蘋果のおなかの子の堕胎に反対だった。
結局、林東夫婦と蘋果夫婦は、子供が生まれたときの条件つき契約書を交わし、蘋果の出産を待つことに。複雑な心境の王梅をよそに、林東は子供を持てる喜びに少々はしゃぎすぎ、しかも、嬉々として身重の蘋果の世話を焼き始め、安坤もまた複雑な面持ちとなる。本筋にそれるが、このあたりからの林東の素行がたまらなく面白い!従業員を集めての朝礼だか夕礼だかで、リズムに乗って踊りながら体操するシーン、「さあ、笑って!笑顔!笑顔!さあ、頑張って!僕について!頑張って!頑張って!笑顔!笑顔!」。これはまるでビリー・ザ・ブート・キャンプ!!家輝さんは愉快な隊長さん!もちろん、そんなキツイ体操に身重の蘋果は参加させない。また、突然、蘋果の家を訪ね、安坤と蘋果がいっしょにシャワーを浴びていたことに「そんなことをして欲情でもしておなかの子に影響したら大変!」とか「ベッドの左側に寝るように。男の子を授かるから」とか「どんなにつわりがあっても何か食べなきゃいけない」と栄養食品を与えたり、まるで母親のような勢いで世話を焼く。また、日本で言うところの水天宮にも安産祈願はかかさない。蘋果のおなかが膨らんできて子供が動くようになると、人目もはばからず腹に耳を当て、「動いた!また動いた!やっぱり父親が分かるんだ!」などとすでに少々度を越した子煩悩ぶり。そんな林東に困惑気味の蘋果とますますしらけていく安坤。
そして、ついに赤ん坊は産まれる。元気な男の子だった。早速、担当医から出生証を受け取った安坤、子供の血液型はA型、まちがいなく安坤と蘋果夫婦の子だった。しかし、目の前の十万元が欲しくてたまらない安坤は、医者をだました上、金で買収して証明書をB型と書き換えさせる。
安坤の偽造により、林東は子供が自分の子供だと信じ、約束の金を彼に渡した上、蘋果と子供を自分の家で養育することに決める。そして、赤ん坊は林東の子として知人たちに祝いとお披露目をする。自分の子供を持てない妻の王梅は、人前ではずっとポーカーフェイスで夫の行状に理解を示してきたが、今度ばかりは打ちひしがれ、一人で涙するのだった。
子供ができてからも林東は、あいかわらず子煩悩な父親振りを発揮し、今度は子供の養育のために林東の家に同居する若い蘋果に色気を感じ始める。それに気づく王梅、彼女と蘋果の関係はかなり微妙な関係になっていく。そして、子供が本当は自分の子だと知る安坤も、林東の底抜けな間抜けぶりに辛抱たまらなくなり、ついに赤ん坊の本当の父親は自分だったことを蘋果に告げる。そして、今度は、何が何でも、自分のもとに取り戻そうとする。男たちに翻弄される蘋果だったが、自分と子供をかいがいしく世話をしてくれた林東に申し訳なく思い、彼にしがみつき泣くのだった。
ある日、蘋果が昼寝をしている隙に、安坤が赤ん坊を連れ出す。自分と蘋果の関係に嫉妬する妻への猜疑心も生じた林東は、彼女が安坤をそそのかして赤ん坊を連れ去らせたのではとなじり、たとえ、赤ん坊がいなくなっても自分は王梅と別れ蘋果と結婚するとまで言い出す。
警察の手によって、赤ん坊は林東のもとへ戻るが、その際の調査で赤ん坊の血液型は自分と一致しないことを知る。信じられない事実に男泣きする林東。警察から解放された安坤が、林東の家へ金を返しにやってきて、子供も連れて行くと言う。林東は、ずっとこの子を自分の子供だと思っていた、どれだけ金を上乗せしてもいいから連れて行かないでくれ、と懇願する。しかし安坤は拒否する。怒りと悔しさで大金の袋を放り投げる林東。シンクに溜まった水の中へ放り込まれた金を取り出そうともせず、身動きもできないくらい苦悩する林東。一方、蘋果もまた安坤のもとへ帰ることを拒絶する。安坤は、3日間だけ猶予を与えるが、その後言うことを聞かないなら、法廷で話し合おうと捨てゼリフを残して去る。呆然とする蘋果。林東は、「自分は一度言ったことは実行する。必ずこの子のために君を妻にする」と蘋果に言うが、彼女自身はもう疲れ果てていた。家を出る覚悟をした王梅は、そんな彼女の手を無言でそっと握る。男たちの身勝手さに翻弄される女同士の空しい心が通じ合った瞬間、二人の女はお互いに涙するのだった。北京の冬の夜明け、ビルのベランダから都会の景色を一人見つめる蘋果は、ついにある決心をするのだった・・・。

若い女性監督、李玉の作品だが、今回の映画はほとんど男性が中心に話が展開し、范冰冰の演じるヒロイン蘋果は、ほとんど受身的だった。最初は、明るく屈託の無い若妻の様相だったが、林東と関係ができたことによって、全く別の人生が始まる。金燕玲演じる社長の妻、王梅も最初はかっこいいキャリアウーマンのように見えたが、やはり夫主体の生活に甘んじていた。でも、ふたりの生き方に嫌な感じは受けない。范冰冰、金燕玲、両人とも大変美しく優れた演技だった。特に、范冰冰は今まで多かったお姫様やお嬢様役とは全く違う、性感シーンも多い今回の役を体当たりで演じていた。顔も体も美しい人なので、苦悩する表情や呆けた姿はまた一段と色気があって、かなりの好演だった。金燕玲の演技は言うに及ばず、円熟した女の魅力と優しさをたっぷり湛えており、劇中登場人物の中で私は一番同情した。女好きで手が早く、しかも身勝手な林東と、金のためならまるで美人局のようなことまでする、だらしない男、安坤。なんだか、情けない男の典型のような二人だが、もしかしてこれは、中国人男のステレオタイプかも。家輝さんもィ冬大為もまじめで健気な役も大変似合う俳優だが、今回はふたりともやれやれ・・・的な役どころ。そして、これがまた、残念ながら(?)とても上手い(笑)。
北京の街の光景やセットの意匠など、場面場面のアングルや色彩にも感じるものがあり、なかなかの秀作だった。残念なのは、ラストの空しさ。発展を信じて邁進する北京のように、もう少し前向きの終わらせ方はできなかったのだろうか。それから、私は中国版DVDで鑑賞したので、オリジナル本編にあったらしき数画面が完全にカットされていた。(たとえば、安坤と王梅が関係を持つシーンとか)よって、話の流れや解釈にかなり違いがあるかもしれない。香港では上映されたようなので、香港版でノーカット版が出ることを強く希望する。